2012年4月15日日曜日

発がんのメカニズム


ー小児がんの病理ー

次にがんはどのように生まれ、そしてどのように進行し,やがて個体を滅ぼすようになるのか?について話します。

その前にわたしたちの体はどのようにして出来ているか触れておきます。
1.1個の細胞から60兆個の細胞へ
「わたしたちの体の不思議」の項で話したように私たちの体は1個の受精卵から始まり、やがて個体になりますが、個体になると60兆個の細胞に増えます。
1個の受精卵から60兆個の細胞は細胞分裂によって増えます。さらに、それぞれの細胞には寿命(細胞にはその種類によって数時間からその個体が滅びるまで様々な寿命があります)があり、絶えず新しい細胞と入れ替わっています。そのあたりの詳しいことは「わたしたちの体の不思議」の細胞というところで話します。
図1 受精卵から個体へ


図2 細胞増殖サイクル

2.細胞が増える時に異常(がんの発生)が起きる
細胞が増えるためには核が分裂する必要があります。細胞分裂と呼びます。細胞分裂の際には核が2つに分かれ、核の中のDNAも2分割されます。その時に、DNAに傷が付く場合があります。その傷はDNA修復酵素で元に戻ることが多いのですが,中には傷がついたまま分裂してしまう細胞も出てきます。そのような異常な細胞は通常自分で死んでしまう(自殺)ことが多いのですが,極めて稀には異常なまま生き残って増え続ける細胞があります。
解りやすくイラストで示します。

図3 がん細胞はこうしてできる

3.がんの原因
がんは既述したように細胞が増えるときに核のDNAに傷が付き、その細胞が際限なく増える状態ということができます。つまり、がんは遺伝子の病気なのです。
それでは傷が付く原因(発がんの原因)は何でしょう?
原因として挙げられるものは以下のごとくです
①化学的因子:タール,アゾ色素(膀胱癌←職業がん),アスベスト
        ホルモン(エストロゲン→乳癌,男性ホルモン→前立腺)
        免疫抑制剤
②物理的因子:機械的刺激,放射線(白血病,甲状腺癌),紫外線など
③生物的因子:ウイルス(DNAウイルス,RNAウイルス)
④がん遺伝子,がん抑制遺伝子
⑤その他:食物 (食習慣)
    日本人;胃癌,食道癌→肺癌,乳癌,大腸癌←食生活の変化
    欧米人;肺癌,乳癌,大腸癌


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1)化学的因子
これを世界に先駆けて明らかにしたのは東京帝国大学の山極教授と市川助手です。彼らは毎日実験用ウサギの耳にコールタールを塗りつけ、皮膚がんの発生に成功しました。
これが実験発がんの最初であり、わが国が今日まで発がんで世界をリードし続けているのもこの業績があったればこそです。その他、染色に使うアゾ色素が挙げられます。この化学物質を日常的に扱う染色工に膀胱癌が頻発し,職業癌と呼ばれるようになりました。また、ホルモンも発がん性をもち、女性ホルモンのエストロゲンが乳癌や子宮内膜癌を、男性ホルモンが前立腺癌のそれぞれ発生を促進するといわれています。

2)物理的因子
機械的な摩擦が長い間続くと、がんが発生します。入れ歯のかみ合わせが悪いなど口の中の粘膜が常に刺激される舌癌や口腔内癌が発生する危険性が増します。また、放射性物質が発がんに関係あることは、広島の原爆被害者やチェルノブイリ原子力発電所の事故で周辺地域の住民に白血病や甲状腺が多発していることでも明らかです。さらに、紫外線も発がん性があります。近年の地球環境の破壊からオゾン層が破れ、紫外線が直接人体に暴露することになり,皮膚癌が増えていることはよく知られた事実です。幸いなことに日本人は皮膚にメラニン色素が多いので皮膚癌の発生は白人種より明らかに少ないのです。

3) 生物的因子
ウイルスにより発がんが代表的なものです。ウイルスにはDNA ウイルスとRNAウイルスの2種類があります。DNA ウイルスはウイルスが増殖する際に、ヒトの染色体に入り(インテグレーションといいます)、異常な遺伝子が新たに出来て、がんの発症の原因となります。代表的なものとしてB型肝炎ウイルス(HBV)による肝細胞癌、EBウイルスによるリンパ腫、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頚癌などです。特にHPVは性的交渉で感染し、癌が発生することが明らかになっています。一種の性病(sexually transmitted diseases, STD)です。

図4 DNAウイルスによる発がん機序


ノミは犬の皮膚刺激を引き起こす可能性があります

一方、RNAウイルスはそれ自体では増殖する能力はありませんが、自らをDNAに転換できる酵素(逆転換酵素、reverse transcriptaseといいます)を持ち、それを使ってDNAに転換し増殖します。インフルエンザウイルスやHIVウイルス(後天性免疫不全ウイルス)はその代表的なものです。このウイルスによるものとして、輸血など血液製剤から感染するC型肝炎ウイルスによるC型肝炎→肝硬変→肝細胞癌が挙げられます。社会的な問題として大きく報道されているのでご存知の方も多いと思います。また、九州地方など日本の南西部に多い成人型T細胞白血病ウイルス(HTLV)が起こす特異な病型の白血病がその代表的疾患です。
最近の話題ではカンピロバクターの一種であるピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)が胃癌やリンパ腫を惹き起こすことが明らかになっています。

4)がん遺伝子
元々ニワトリやマウスでは自然に発症するがんがあり、その原因を調べると変異遺伝子が見つかります。ヒトでも膀胱癌からH-ras遺伝子が見つかり,これを分離して試験管内で培養した正常の細胞に振りかけるとその細胞ががん細胞に転換することが明らかになり,がん遺伝子と呼ばれるようになりました。しかし、こうして見つかった多くの遺伝子は実は正常のヒトにも存在し,細胞の増殖や分化に関わっており、われわれの生存に必須で重要な遺伝子であることがわかりました。では何故このような遺伝子ががんを発症させるようになるのか?それにはこれらの遺伝子が異常な状態になる仕掛けが必要なのです。それをがん遺伝子の活性化機序といいます。点突然変異・染色体転座・遺伝子増幅 の
3種類があります。簡単に説明します。
①点突然変異
遺伝子の1箇所以上が異常を生じ、それが誤った蛋白として読まれ、その蛋白が異常な細胞の増殖を惹起し、がんの発生の基になります
図で説明します
図5 点突然変異

②染色体転座
細胞が分裂する際に、染色体の一部がちぎれて他の染色体に飛び、そこで新たな遺伝子をつくる。そしてそれが基になってがんが発生します。この仕組みでがんとなるものは白血病やユーイング肉腫、横紋筋肉腫など小児がんに多いのです。
イラストで示します
図6 転座

図7 ユーイング肉腫 11番染色体と22番染色体の間に転座があります


骨に発生する悪性度の高いがんです

 


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③遺伝子増幅
活性化していなし遺伝子でも、何らかの原因で沢山の量ができるとそれだけでがんの原因になったり、がんの悪性度が増します。その典型的な例は小児がんである神経芽腫(Neuroblastoma、以下NB)の悪性度の指標となるn-myc(MYCN)遺伝子の増幅です。
神経芽腫は年令の低い子供にできた場合と年長児に発生した場合では悪性度が異なります。
年少児NBを調べるとMYCの増幅が殆ど認められないのに対して年長児のNBでは殆どの症例で増幅しています。そして、それらは予後が悪いのです。

図8 遺伝子増幅

図9 MYCが増幅したNB 副腎周囲のリンパ節への転移・浸潤が極めて著しい

因みに、乳癌でもHER-2遺伝子の増幅が認められる症例はリンパ節への転移が多いことが知られています。


5)がん抑制遺伝子
がんの発生を抑制するという意味で「がん抑制遺伝子」といわれています。殆どのがんはこのがん抑制遺伝子が何らかの原因(変異や,欠落)により機能を失うために起きたり、がんが進行するといわれています現在、数10種類が知られています。遺伝性のがん(家族性腫瘍)の原因で最も多いものが「がん抑制遺伝子」に生まれつき変異があることによるもので、がん抑制遺伝子も家族性腫瘍から見つかりました。つまり、ヒトの性染色体以外の体(または常)染色体はすべて2つずつ(1対)ずつあります。家族性腫瘍の素因をもつ人は、そのうちのひとつの染色体に乗っている遺伝子に変異があります。変異は受精卵の時からあるので体の全ての細胞(60兆個)に変異が認められるとことになります。しかし、2つのうちのひ� �つの染色体は正常なのでそこにある遺伝子は正常です。つまり、がんを抑制する機能ははたらき続けています。偶然同じ「がん抑制遺伝子」に同じ変異がおきるとがんを抑制する遺伝子は働かなくなり、がんが発生します。また、家族性腫瘍でなくても、同じ遺伝子変異が両方の染色体上で起きるとがんになります。それらを散発性腫瘍といいます。
がん抑制遺伝子は1986年、網膜芽細胞腫の発生に深く関与する遺伝子としてRB遺伝子単離されことからにわかに注目を集めました。先ほどの繰り返しにもなりますがRbは片方の対立遺伝子が損傷し機能していない状況でも、もう一方の正常な対立遺伝子からRbタンパク質を作り出すことができ、(一見)正常に働きます。す。しかし、残された正常遺伝子にも損傷が起きると(ヘテロ接合性の消失という:Loss of heterozygosity)、RbがコードするRBタンパク質の機能が失われ、網膜芽細胞腫の発生につながるということになります。がん発生の最も重要な発見の一つであるKnudsonにより提唱されたこの2ヒット理論(2 hit theory)は遺伝学的に証明され、Rb遺伝子はがん抑制遺伝子と同定された最初の遺伝子となりました。

図10  がん抑制遺伝子は網膜芽細胞腫から最初に見つかりました


網膜芽細胞腫により摘出された眼球(網膜から発生した腫瘍は眼球内を充満するように増殖しています)

図11 網膜芽細胞腫が発生する仕組み(2ヒット説)


左が家族性発生の網膜芽腫、受精卵の時にすでに片側の染色体上のRb遺伝子に傷がついています(赤い部分)、そして網膜になった細胞でもう一度変異が起き、腫瘍が発生
一方、右は家族性ではない散発性網膜芽細胞腫、 網膜で2度Rb遺伝子に傷がつく


実は、後にRb遺伝子は網膜芽細胞腫の責任遺伝子としてだけではなく、細胞周期(細胞増殖サイクル)を調整する重要な遺伝子であることが解りました。
その他、家族性腫瘍に広く関わる17番染色体上のp53(細胞増殖サイクル調整機能を持つ)の、乳癌に関連するBRACA1、2,大腸癌に関するAPC, DCC、結節性硬化症に関係するTSC、腎細胞癌のVHLなど多くのものが見つかっています。

4.がんの発生・進展(拡がり転移すること)は多段階である
がんは遺伝子の病気で、その原因を色々挙げてきましたが、がんの発生と進展は極めて複雑です。すなわち、一個や二個の遺伝子の異常だけで生じるのではなく、いくつも原因、遺伝子の異常が重なって起きるのです。

 

図12 がんは一つの細胞から生まれ、そしてだんだん悪くなる


肺癌の例

図13 拡がりも多段階

図14 結腸粘膜からポリープになり、大腸癌となって肝臓に転移するまでのがん関連遺伝子の変化

 

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